おこがましいと自分でも思いますが、僕はノリと似てるかもしれない。


僕は最後の直線、馬券を買っている馬や応援している馬or騎手が頑張っているとき、叫んで応援する熱いタイプのファン。
そんな僕がこの大一番、直線で抜け出し先頭をノリが走っているとき、石像のように黙って見守っていた。
そして夢が叶った瞬間、噛み締めるように右手でグッと、小さくガッツポーズ。


ノリは重賞を勝ったり、重賞でなくても自分の思い描いていた通りの騎乗で勝利を収めたときは派手なガッツポーズをする熱いタイプのジョッキー。
そんな彼が、悲願のダービージョッキーになった瞬間、ガッツポーズすら見せず流していた。平場のレースを勝った時のように。
人間、本当に嬉しい時、本当に勝負がかっている大事な時はそうなるものなのかもしれない。


僕はダービーの予想日記でロジユニヴァースに◎を打っておきながら
「正直飛ぶと思ってます」と記しました。
ノリを信じつつも心のどこか、いや、大半は疑念が占めていました。
応援しているジョッキーの大一番なのに。情けない話です。


ノリは勝利騎手インタビューで、
「状態が一息で馬を信じられなかった自分が情けない」と言っていました。
やはり皐月賞の惨敗で半信半疑になっていたのかもしれません。


レースは40年ぶりの不良馬場。
時計のかかる馬場を得意としているロジには追い風だと思いました。
「ダービーは運のいい馬が勝つ―。」
先人たちの偉大な言葉。天候も味方につけた。
あるいは境勝太郎先生やメジロのおばあちゃんが降らせた雨だったか。


20歳の藤岡康太が飛ばしに飛ばす。2番手にリーチザクラウン、その後ろにロジユニヴァース
舞い上がっていたのか、怖いもの知らずなのか、いかにも若者らしい思い切りの良さ。
それに惑わされず正確な体内時計を刻む、二人の天才。
最後の直線。一瞬空いた内へ猛然と突っ込み、こじ開ける。
以下はもう独走態勢。強いロジユニヴァースが帰ってきた!
メジロライアン以降ずっととらわれていた呪縛が解き放たれた。


レース直後、武豊とハイタッチを交わしているところで僕は我に返り、テレビの画面が滲みはじめる。
今まで散々後塵を拝してきた武豊を従えてのダービー制覇。感慨深いものがありました。
アンカツをはじめ、色々なジョッキーから祝福の言葉をかけてもらっているのを見て、本当に慕われているなと改めて実感しました。


ウイニングランを終え、ヘルメットを取り応援してくれたファンに深々とお辞儀したのを見て涙腺完全崩壊(笑)
皐月賞であんなブザマな競馬を見せたのにこれだけ支持してくれてありがとう」
どうでしょう、僕にはそんな風に見てとれました。
検量室へ戻っていく時にも何度も腕を突き上げ、そしてまたお辞儀。
「馬が頑張っただけなのに、俺にも大歓声をくれてありがとう。」
そんな気持ちだったのでしょうか。


検量室へ戻ってきた際、色々な陣営から拍手で出迎えられたのが凄く印象的でした。
そのなかでも特に印象に残ったのが橋口調教師との握手。
橋口先生もダービーにかける想いは競馬サークル内でも随一。
2着に敗れ悔しいはずなのに、笑顔でノリを祝福されていたところに先生の人柄を見ました。
次は橋口先生のダービー制覇をぜひ見たい。あ、それとまたノリに騎乗依頼してくださいね(笑)


そしてまた明日から来年のダービーへ向けた長い戦いが始まる。