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僕にとって初めてのダービーは2001年、世紀と出走条件が変わった、大きな変革の年だった。
制限付きながら外国産馬も出走が可能となり、その元年に登場した芦毛の外国産馬クロフネと、
"幻のダービー馬"フジキセキと全く同じ陣営で臨む内国産馬ジャングルポケットの対決に注目が集まった。
結果は角田晃一が駆るジャングルポケットが府中に強いトニービンの血をまざまざと見せつけ勝利を収めたのだが、
後に、クロフネに騎乗していた武豊がこんな言葉を残している。
「スタート直前に角田の方を見たら、誰もが緊張するダービーの一番人気馬に乗っているにも関わらずニヤニヤしていたんです。
これを見て『あ、こりゃ持っていかれるな』と思った」。
角田ジョッキーの強心臓ぶりを改めて思い知らされるエピソードとして記憶に残っている。
そんな名レースの片隅で、僕の記念すべき初ダービーの本命を託したテンザンセイザは掲示板争いを展開していた。
だが大好きだったこの馬に本命を打ったことは1ミリも後悔していない。
今も僕のダービー史最初のページに燦然と輝いている。
以降、毎年名レースが繰り広げられるダービーだが、特に思い出に残っているものが2つある。
2005年の日本ダービー。
最後の直線、競馬ファンのほぼ全員が大外の怪物に注目し歓声をあげているなか、僕の目は最内に向けられていた。
インティライミと佐藤哲三。
本気でディープインパクトを負かしに行った、先行からの最内強襲粘り込み。
"勝負師"佐藤哲三の魅力に溢れる好騎乗に、単勝、馬単を持っていた僕は大満足なのであった。
もう一つは2009年。
馬券の結果に関係なく、競馬ファンの誰もが勝利騎手の祝福ムードに包まれた。
横山典弘、ロジユニヴァース号での悲願のダービー初制覇。
先述の佐藤哲三と並んで熱烈に応援しているジョッキー。
入線後まもなくはボーっとして、その後普通に泣いた。
人間面白いもので、本当に嬉しい時は声も出ないし騒ぎもしなくなる。
直線半ばまでは、「ノリ!ノリ!粘れ!頭や!」と大声で叫んで声援していた僕が、
ラスト100mくらいになって勝利を確信した時、全く声が出なくなり時が止まっていた。
それは按上も同じだったようで、普段は派手なガッツポーズを魅せるノリちゃんが、
じっと、喜びを噛みしめていたのが印象に残っている。
ウイニングラン後、スタンドにいるファンに向けてヘルメットを取り、
涙ながらに深々と頭を下げるノリが不良と化した緑のターフに実に映え、
質としては決して高くなかったかもしれないが、いいレースとしてファンの心に刻まれていることと思う。
そんな思い出話に浸りつつ、さぁ第78回日本ダービー。
出走表に横山典弘の名がなく、
ここまで手塩にかけて育ててきたデボネアから佐藤哲三が降ろされ、
もう一人、熱烈に応援している川田将雅が底を見せたシンガリ人気馬に騎乗する、そんなダービー。
皐月賞終了時点で、本命はデボネアと決めていた。
外枠スタートで出遅れながらも最後いい脚で追い込み4着を確保。
距離伸びてさらに真価を発揮出来そうなレース振りに、何より佐藤哲三が手綱を握る。
ダービージョッキー佐藤哲三の誕生に、期待に胸が膨らんでいた。しかし―。
5月17日に発表された、世界のランフランコ・デットーリへの乗り替わり。
相手が悪いから仕方ないとはいえ、結果を残してきただけに佐藤哲三ファンとして納得出来なかった。
ダービーの本命が消えた。
気持ちを切り替えることにした。
これで変な私情を挟まず予想に集中することが出来る。
しかし新たな壁が立ちはだかった。
全然わからない。
根本的な問題である。
木曜の夜に枠順をチェックして一番最初にわかったことが、「全然わからない」ということだった。
普通に考えれば府中開催の皐月賞で3馬身ちぎったオルフェーヴルで問題ないのだが、この週末は生憎の空模様。
重以上は確実で、そうなれば全馬にチャンスがある。
競馬ファンも同じ考えなのは前日最終オッズの均衡ぶりが証明している。
散々悩んだが、コティリオンを第78代ダービー馬に指名する。
馬場悪化に加え、確たる逃げ馬も不在。
スローペース濃厚で前残りの展開が見えるが、それはジョッキー誰もがわかっていること。
必然的に仕掛けは前がかりとなり、最終的に外から追い込んでくる馬にチャンスが巡ってくるのではないか。
この馬場状態なら、この馬最大の懸念材料である折り合いに苦労することもないだろう。
ただし切れが身上の馬だけに、その武器を殺がれることにもなるのだが。
スローで一団で流れても一瞬の脚で交わし切れ、縦長になったらなったで外を回さなくても捌いてくることが出来る。
世代最強の切れ味を持つこの馬が全馬まとめて交わし去り、橋口調教師&小牧太の涙の表彰式を期待する。
相手には先行馬ベルシャザールを指名。
共同通信杯のレース振りを見て、高い潜在能力を秘めていることに疑いの余地はない。
距離に関しては何とも言えないが、この馬場悪化が味方にならないか。
仮にも皐月賞で自信の本命を打った馬。簡単には見限れない。
一発期待はフェイトフルウォー。
京成杯から直行で臨んだ皐月賞は完全に叩き台。震災の影響もモロに受けた。前走は完全に度外視出来る。
ハナからここ一本狙いで、重馬場での勝ち鞍もある。按上も何を考えているかよくわからない田中勝春。
それが逆に不気味で一発単穴評価にふさわしい。
皐月賞をぶっちぎったオルフェーヴルは切るわけにいかない。
勝負強さが光る池添謙一、個人的に非常に信頼しているジョッキーの一人だ。
彼も三十路を過ぎた。もうダービーを獲ってもいい頃かもしれない。
トーセンラーの按上、蛯名正義も同様。未だに勝っていないのが不思議なくらい。
この馬、皐月賞でチグハグな競馬しながら最後は大外からいい脚で伸びてきていた。
ダービーで穴を開ける典型的パターン、穴人気しているのも頷ける。
当初の本命予定だったデボネアも当然切れない。
デットーリがどういった騎乗を見せるのか楽しみである。
さすがに世界一のジョッキーといえど、テン乗りでダービーを勝てるほど甘くはないと思うが…。
あとは堅実派ユニバーサルバンクも怖い。
重馬場はこなしそうだし、すんなり先行させれば粘り込みも十分にある。
それはロッカヴェラーノにも言える。
この馬何よりツキがある。
ギリギリ滑り込んだうえに、按上にはダノンバラードに騎乗予定だった武豊が転がり込んできた。
最近の劣化ぶりは否定出来ないが、なんだかんだでこの按上は怖い。
按上の怖さでいえば最内ウインバリアシオン。
空気扱いされているが、最内をスルスルと無欲の安藤勝己の追い込みがさく裂するかも。
他にもクレスコグランドやらトーセンレーヴやらナカヤマナイトやら…言い出したらキリがない。
サダムパテックはダイタクリーヴァ2世と見ているが、距離は案外こなせそうな気もしている。
初めは「サダムがダービーなんて…」と思っていたが、よくよく考えてみると、
今やピサノがクラシックや有馬記念どころかドバイワールドカップも制する時代である。
サダムやトーセンがダービーを勝っても何ら驚けない。
◎コティリオン
○ベルシャザール
▲フェイトフルウォー
△オルフェーヴル
△トーセンラー
△デボネア
△ユニバーサルバンク
△ウインバリアシオン
馬券はとにかく手広く。
コティリオンの単複と総流しくらいの気持ちでいる。
もしくは大荒れを期待して、人気馬を全部切ったボックス買いなんてことも考えている。
とにかく難しい。僕は当たる気が全くしない。
皆さんは当ててね!