強さがもたらした栄冠― 第78回日本ダービー回顧

強かった、人馬共に―。






池添謙一という男は恐ろしい。
不良馬場で先行有利と思われるなか、他馬には目もくれず後方に待機し折り合いに専念し、
直線では狭いところに突っ込み、他馬の間を割ってくるという大胆なレース運び。
これをダービーの一番人気馬で実践したのである。
余程の根性と愛馬への信頼感がないとこんな騎乗は出来ないだろう。


池添ジョッキーのこれまでのダービーの騎乗成績を振り返ってみてまた驚いた。


2001年 18人気 15着 スキャンボーイ
2003年 17人気 12着 マーブルチーフ
2005年 16人気 11着 コンゴウリキシオー
2006年 15人気 16着 トップオブツヨシ
2007年 13人気 13着 ローレルゲレイロ
2010年 12人気 4着  ゲシュタルト


上位人気どころか、これまで一桁人気の馬に騎乗したことすらなかったのである。
それが今回、上位人気を飛び越していきなりの一番人気。
勝利騎手インタビューでも素直な気持ちを吐露していたが、
かなりの緊張、プレッシャーがあったことは表情を見ても明らかだった。
これまで数多の名ジョッキーがそのプレッシャーに圧し潰されてきたが彼は負けなかった。
これでGI13勝目となったが、その内訳を見ると
デュランダルスイープトウショウドリームジャーニーといった追い込み馬の名がズラリ。
腹を括って後方待機し結果を残してきた、彼の強心臓ぶり、肝の据わり具合の証明である。
その根性が初のダービー上位人気、それも一番人気のプレッシャーをもはねのけた。本当に大したものだ。


そんな最高のパートナーを得たオルフェーヴルにとって、
大雨でぬかるんだ不良馬場を突き抜けることくらい容易かったであろう。
それだけの芯の強さをこの馬は持っている。
「不良馬場なんて些細な試練に過ぎないんだよ―」
レース後のオルフェーヴルが鼻で笑っているような気がした。


計り知れないプレッシャーに打ち勝つ根性と、デビュー戦から培ってきた人馬一体の信頼関係が生み出したこの結果は、
終わってみればなんてことない、簡単に導き出せるものであった。
秋には大仕事が控えている。まずは無事に夏を越してほしい。


2着のウインバリアシオン安藤勝己の手腕によるところが大きい。
道中は相手をオルフェーヴル一頭に絞り、背後で徹底マーク。
直線で馬場の外目から鋭く迫り、最後は離されてしまったものの堂々の銀メダルだった。
時計が遅かったことで青葉賞組の評価は軒並み低調なものだったが、
これだけ馬場が悪化し、最内枠で人気薄の安藤勝己。あまりにも人気がなさすぎた。
まだまだ成長途上でスタミナ豊富な馬。三冠阻止一番手の座は揺るがないだろう。


3着ベルシャザールも特に驚きはない。
不良馬場も味方したが、やはり体が戻っていたことが最大の好走要因だろう。
共同通信杯で見せたレースぶりに潜在能力を垣間見ていたが、やはり間違ってはいなかった。
皐月賞で自信の本命を打っていた馬。本命を打ち切れなかった自分に腹が立つ。


世界のフランキー・デットーリ騎乗で過剰気味に人気を集めたデボネアは見せ場なく敗れた。
結果論になるが、やはりテン乗りでダービーを勝つというのは並大抵のことではないということ。
ただこの馬も本格化はまだまだ先。
3000mも問題なさそうだし、秋にもう一度哲三とのコンビで大きい舞台に出てきてもらいたいものだ。


先行馬壊滅のなか、見せ場を作り6着に踏ん張ったショウナンパルフェはかなりいい馬。
2000m前後の重賞ならすぐに勝てるんじゃないかな。
クレスコグランドも最後の伸び脚に実力の片鱗を見せた。良馬場でどれだけやれるか見てみたい。
ナカヤマナイトは良馬場なら3着はあったと思う。


本命を打ったコティリオンは大惨敗。馬場も合わないし距離も長すぎたということだろう。
実力はかなりのものを秘めているが、いかんせん越えなければならないハードルが多すぎて
今後も重賞で差し届かず2〜3着とかを繰り返してしまうような気がする。


今年のダービーは「心」、「芯」、「信頼関係」の強さを持った人馬による独演ショーであった。
そしてまた明日から、来年のこの日へ向けた戦いが始まる。


しかし…。池添ジョッキーと同じ誕生日なのに、どうして僕の心はこんなに弱っちいのだろう…。
しっかりと見習わなければ!